春の宵…

山青く光りを孕んで・・・いよいよ春です。再生の春です。

今年に入って急速に老いが増した義母、自分が混迷の世界へ向かっているのが不安なのでしょう。

途切れる記憶を行きつ戻りつしながら・・・先日ゆっくり紐解いて義母としみじみと語れました。

友人達もいなくなり自分を失う不安、義母は時折両手で顔をおおいました。

その夜、その義母が「発散したいから・・・」と夫と三人でカラオケに行きました。

歩くのさえ覚束なくなっているのにまして寒い夜です。「明日の方が良いよ」と言う夫に「今日…」と義母は言います。

どうしてもそうしたかったのでしょう。

その夜、90の義母は2時間独り歌い切りました。歌詞がワンフレーズ遅れながら、時に踊りさえ入れて…

ある歌に夫が泣き崩れました。確執のあった母親・・・万感迫るものがあったのでしょう。

「人生の第三ステージ、楽しみましょうね」義母にそう言うしかなく・・・熱い物が込み上げてきます。

「頑張るから…」義母が涙目でそう言いました。忘れられない夜になりました。

「さらりと水に全て流して…二人でお酒を飲みましょうね」あれから義母のあの歌が耳にこびりついて私も思わず歌っています。

自分の両親と義父は病気で見送り、健全なまま老いに霞んで行く義母が今その霧の前に立っています。

ここに来てようやくスキンシップ・・・遠い遠い人が抱きしめられる事を待っていました。

義母と交わす一言一言が今愛しい想いに駆られます。そんな気持ちになれた事を幸せに思います。

こうして今人生の崇高な重みに向き合っています。

生きるという事は魂が交わる深い喜びがあって・・・ここまで歩いて来てまだ幾つもの贈り物が用意してあるんですね。

 

庭先で夫がほろほろとした土をいじりながら鼻歌を歌っていました。色んな確執から解き放たれ、素直に愛が溢れ晴れ晴れとしたのでしょう。

温んで来た春の宵・・・昨夜は私達の42回目の結婚記念日、二人美味しい酒を飲みました。

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です