台風一過

バカンス退院から十日目、山積するバタバタ雑務を片付けて駆け込んだ久しぶりの神戸。
展示会前の設営にちゃんとS嬢が待機してくれてる!
彼女と出会った十数年前、あれから一歩下がった場所からずっと私を支えてくれている・・・
遠慮がちに送られる彼女の温かなエールを身に浴びながらまた神戸に帰って来た事を実感する。
退院直後もあって無理がたたったか、異変が体中に出ていたにもかかわらず
皆に会えて「元気よ!」と言えば元気が出てくる!
「帽子」を通じてこの十年余りに此処で出合った様々な女達・・・笑いながら頷きながら私達の時間を紡いできたんだなぁ。
私は展示会でこの街を訪れるたび、娘の部屋から通い馴染んだ路地を徘徊した。
あれから娘は幸せの居場所を見つけ、十年住んだこの街を出て行った。
今回も彼女が住んでいたマンションの坂を横目で素通りすれば、娘の置き忘れたかけらがまだあそこそこに見え隠れしている。
こうして縁が薄くなった街にあの頃と変わらず温かな人たちが待っててくれる。
最終日にも馴染みの彼らが駆け付けてくれて梱包まで!・・・やっぱりこの街、私には特別の街!

こんな素敵な思いを胸に帰り着けば台風襲来目前に絵と上手く折り合いのつけない不機嫌な夫が待っていた。
確かに彼の個展がもう間近・・・ひどく疲れていたけれどその逆鱗に触れぬようバックを下ろすとそのままキッチンへ。
翌朝も不機嫌三昧の彼に私はついに切れた!
御身大切のこの男はこの40年余り私の体調すら察することもなかった・・・
「俺に迷惑かけるなよ」彼の姿勢。だから独りで出産、育児・・・仕事もそうやって来ました。
その彼が険悪に眉根に皺をよせ「絵が描けない!」この三か月あまりずっとこの調子なのだ。
極楽とんぼだったら良いですよ。
何にも考えないで釣りと花と絵のことだけで笑って過ごせば私は頑張ります!
「絵が描けない?甘ったれるんじゃねぇ!」ついに私の怒りが炸裂した!
70も目前になったら男は自分の力量を知り、じっと堪えて・・・その事を遊ぶんだよ!
「後は絵描きとして生きたい」そっちがそう言ったからこっちは頑張って働いてんだよ。でも「楽しい…」って働く!それが私の流儀。
あなたがどんなに我儘でも横目で流します。楽とんぼは極楽とんぼのままで太平楽に絵を描きゃ良いじゃないか。
絵が描けないのは自分の腹にしまってキャンバスに向かうんだよ。
絵が思う存分かける事、人生で混迷させられる「絵」に出合った幸せを噛み締めて絵に悩むんだよ!
腹の座ってないまま不機嫌をまき散らし続けるこの男についにドカンと爆発しました。

「私は尽くす女じゃない!あなたを捨てる時は捨てる!そしてこれで終わりにしたくないからまた素敵な恋をする!」私の宣言です。
相手が95%我儘で不遜で・・・でも飛び切りの五つ星5%に満足できる女です。
その5%まで無くしちゃ惚れられない!惚れていられなきゃ一緒に暮らさない!これは私の本音です。
人生のチューブの最後まで私がぎゅーっと詰まっているんだから、そっちも覚悟しな!ってもんです。

ひとしきり私の噴火が収まって・・・「分かった」小さく彼が頷いた。
後で友人に電話で報告。「懲りないねぇ、でもTちゃん、また繰り返すよ」きっとそうでしょう。
彼は傲慢で不遜な一欠けらきらり無垢な男です。こちらも割れ鍋に綴じ蓋・・・似たり寄ったりの男と女。
最後までずしり愛の詰まった匕首をピカピカに磨いて懐にしまっていましょう。

何時の間にか「非常に強い」台風も通り過ぎ、真っ青な高い秋空が広がっていました。

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