蓼食う虫も好き好き…

パリから南下して5時間半・・・もうスペインはすぐそこです。
降り立った駅の前にワインを運んだ小さな運河が流れ、ゆっくり時間が流れます。
パリ滞在中ずっと体調不良の夫の顔にも和みが・・・ようやく旅が始まった。
田舎町カルカッソンヌはひっそりとして町の広場まで出れば大音量の応援歌!
広場前の隣り合ったレストランのテラス前で二十数名の地元の熱狂的サッカーファンが狂喜の雄たけびらしい。
食事に繰り出している観光客を前に彼らのテンションはますます上がりダンスへと発展!
もう彼らの熱気は収まらない、みんな素裸になって目の前の大噴水へ飛び込んだ!一斉にパシャパシャとカメラのシャッター音。
一人が拳を上げて自分の「ソチン?」をあやまれば私達もやんやの喝采!
彼らは真っ白なお尻を並べてなおも大合唱!日の沈まない南フランスの洗礼でした。

うんと太陽に近くなったせいかもうここは真夏日です。
運河巡りをして城の中のレストラン、ゆったり木陰のテラスで冷たい白ワイン・・・ここで思わぬアクシデント。
10日余りの発熱で夫の体は消耗していたのでしょう、一瞬記憶をなくしたらしい・・・転倒して顔面から床に!
眼鏡は吹っ飛び壊れ・・・怪我は大したことないみたいだけれど彼のモチベーションは一遍にどん底に!
炎天下車を探し回り、茫然自失の彼をホテルまで連れ帰って・・・その私に悪態をつきまくる彼。
この旅に出るまで猛烈に仕事をこなし、旅に出てきてから彼の介護?に添乗員!実は私もヘロヘロでした。
彼がベッドに横になるのを見定めてまずはシャワーを・・・そこで私も足を滑らせ転倒!
頭を強打した上に骨折した側の足を強くねじったらしい。
呻いたものの私にはするべき事が…。
すっかり憔悴した御身大切の夫の擦り傷用の薬に「もう外に出て食べる気はしない!」という彼の食料調達!
頭の大きなこぶと痛む足を引きずりつつ薬局や総菜屋探しに眼鏡の調達も・・・。
休みで閑散とした街を歩きながら・・・ひとり怒ってました。何て身勝手な夫!あの流れる雲のような私の旅は何処?!

「あなた本当に性格悪いのね!」「ああ、悪いよ。何か?」開き直る夫。
この43年、あなたを愛してるから僕を幸せにして・・・これが彼の愛の定理です。
私は元来手の掛からない女なのです。あなたさえご機嫌ならば何時も風のようにそよいでいられます!
けれど「私はあなたの召使?」「ぃぃぇ」「召使じゃありませんから!」私の抵抗です!
翌日から私の膝はもう曲がらず・・・帰国してからギブスなのかな?
まあ、いいや・・・微熱を繰り返す彼も不本意だったろう。
この二十日間ですっかり消耗しながら、それでも夜ごと卑しく美味しい酒を求め歩く彼はご立派!?
バルセロナに移って眼鏡を調達、ひとまず彼のご機嫌も直りカサミラやグエル邸を堪能。
未だ未完のサクラダファミリア・・・ガウディの線はなぞっても「彼ならこれは望まなかったはず!」彼の無念さを思う。

ソルにマイヨール広場・・・マドリッドは二人訪れて以来、十年前のかけらを探します。
日中なんと43度!せめてヘロヘロの夫をプラド美術館へと足を延ばせば
うねうねと考えられないほどの長蛇の列、夫はへたり込んで「もう、いいよ」
この状況下でも夜になればこの男元気づくんです。
地元のバルでおっさん達とイワシのマリネにご満悦、私もつられてチントベラーノ!

私は添乗員?である私の任務を全う!今回の旅は二人足を引きずりつつ卑しくバルセロナ、マドリッドを徘徊して不発ながら終わりました。
春、友人夫婦と今年9月の旅が思わぬ形で浮上してまたイスタンブール~ポルトガルまで・・・結局秋にこれを楽しみなさいって事だったんだ!
帰国して東京の娘宅に宿泊。この旅の顛末を言えば
「ママ、私達の癖!?分かってるでしょう、今更!」蓼食う虫派・同病、同じく甘ったれ男が伴侶の彼女の言葉です。
帰り着けば鬱蒼となった庭に紫陽花が咲きこぼれ・・・私は靱帯損傷で再びまたギブスです!
あのヘロヘロは何だったのか・・・夫はすっかり良いみたいでアトリエで絵を描き始めてます。
あの男から・・・深く静かな絵が生まれるのが不思議です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です