豊かなる黄昏・・・

初夏、都会の雑踏へのエスケープからまた海辺の家に戻って慌ただしく長女夫婦のお迎え準備・・・彼等にとってコロナに阻まられてパリから4年ぶりの帰郷です。

展示会が近くなった今、我が家の客室である離れには作り終わった帽子がずらりと並べんでます。この時期になるとお客も差し止めで・・・働き蟻は一個作るたびにアトリエ近くのこの部屋に運んで、ここが帽子で一杯になる頃が展示会なのです。さぁ、まずはこの帽子たちを二階の空き部屋に撤収せねば!私はこの離れをありんこのように帽子を貯め込む部屋に…夫は夫でリビング横の囲炉裏の部屋を昼寝と描き終わった絵を額に入れて並べ眺め観る部屋?に占拠!何時の間にかそれぞれに客がない時はこの二つの部屋が「私の部屋?」です。長女夫婦はこれから10日滞在…だからお互いそれぞれの作品を大急ぎで一斉に片付けに入ります。街から海辺の家に移り住んで・・・子供ら4人がこの家で青春期を過ごし、大勢のお客が押し寄せ呑んだっけ。あの頃は子供4人に大型犬2匹に猫13匹も・・・押し合いへし合いの賑やかな暮らしでした。

この家が建って30年余り過ぎました。彼らが巣立った今、安普請ながらアトリエのあるこの大きな家は夫婦二人の暮らしには広すぎ?でも快適なんだなぁ・・・廊下を巡りながら4つの庭からさわさわと木々の緑の風を受けます。可愛いヤモリ達に大きく育ったうろのある春楡には蟹まで住み着いてごそごそ・・・風鈴がのどかな音を奏で一匹となった猫のミュウミュウがのんびりデッキで昼寝してます。日中は夫婦二人、音楽掛けながらこのアトリエ(元来は夫のアトリエ!そこに私が間借り?です)で過ごし、潮風吹き渡る家で夜は二人お酒を飲みながら映画を観たり・・・70過ぎたってあの若い日々と楽しさは何ら変わらず!否あの頃よりももっとゆったり人生を楽しめてるかも知れません。ただ私達のこの平穏なる豊かな日常に時折珍客が乱入すれば、これはこれでスパイス!また楽しです。

夕方空港に娘夫婦を迎えに行けば現れた二人、ちっとも変わらず・・・4年間も会ってなかった気がしないなぁ。パリを出る前の日も喋ってたし・・・携帯でのビデオ電話は地球の距離をうんと縮めています。重たそうな婿殿Rのスーツケースの中にはこれから会う友人、身内への土産物のお酒がぎっしり!何本も持ってきたらしい・・・ご苦労様!この婿殿は食事は和食何でもOKときた。彼は家に到着すると以前私達がプレゼントした甚兵衛に早速着替える・・・何時もパリでもこれらしい。Rはいわゆる典型的な5時から男?で手堅い仕事を彼流にラフに熟し、今では週に2回だけお役所勤めであとはリモート・・・猥雑なパリのど真ん中のアパートで娘同様絵を描きアペリテフを楽しみながら暮らしている。ただ彼は娘とは気質が真逆?!で極めて穏やかな人柄なのに何故か私へは速攻エスプリの効いた棘ある返しが飛んでくる!そう言えば彼の目には確かに悪戯っぽさが潜んでいるなぁ。そもそも娘を選ぶ段階である種の癖?が伺われるってもんだ。7年前、20年ぶりに母娘一緒に旅をして・・・娘とインスタグラムで繋がっていた彼「ねぇ、呼び出してみる?」そんな次第で滞在したパリのホテルのすぐ近くに住むという彼と娘が初めて出合った日、私もそこにいたのだ。その日・・・娘の何時もながら辛口のしなやかな鞭に彼の瞳が輝いたのを私は見逃さなかった。あの日から彼等の恋が始まったのだ。ようやく彼等が見つけた遅咲きの恋、「毒蜘蛛嬢」と身内で密かに呼んでいたあの長女が今は彼の愛に包まれ「普通の暮らしがこんなに和むなんて・・・」と呟いた。M気あるR・・・この私達一家の平穏もあなたのお陰です!彼等はそれぞれ妹二人の家を訪ね、我が家に帰省して、ここから今度は我が家の子供等にとっては今や叔父叔母のような日南の友人夫婦を訪ねます。大事なひとり息子を失い失意の中にいた彼等には猥雑な我が家の子供等が我が子も同様・・・親以上に何時も良くしてもらってるのです。久しぶりの娘にSちゃんが張り切って大ご馳走を準備して待ってくれた。これでもか!とばかりに極上のお肉に鰻にお得意の鯖寿司etc・・・これがSちゃんです。けれど既に旅の疲れが出始めていた娘には流石にパンチが効いたらしく急性胃腸炎!私の夫T氏も調子悪くなってきて・・・あの日Sちゃん、今度は看護士さんに早変わりでいそいそと彼等の世話焼いてたっけ。

あれから慌ただしい10日間・・・娘が長年の友人であるA女史と二人水入らず?で街で会った夜は私の誕生日。ならばとRを連れて友人H氏を呼び出し何時もの店で呑み!この独身男H氏もまた我が家の子供等には叔父さん!なのです。彼は地元に帰ってくる以前、毎年帰省の正月には我が家に泊まった。子供等が生れてからずっと・・・彼等の成長を見続けているのです。だから赤ちゃんの時から知っている長女の帰国には「絶対呼んでよ!」なのです。その夜の楽しかったこと・・・ちょうど私の誕生日!と言うことで彼の奢りでした。その後も娘の友人夫婦が訪ねて来たり・・・そんなこんなの我が家に滞在最後の夜、朗報が飛び込んだ。彼女の今描いている絵コンテのような漫画?が深夜になってあのル・モンドの情報誌が募集した中の優秀者5名に選ばれた!とニュースが入ったのです。彼女の描く独特の絵も文も・・・質の高さは周知の通り!けれどこれまで何処がこれを見つけてくれるのか・・・でしたが、夫Rの勧めで今回応募したらしい。おめでとう!40過ぎて異国に嫁ぎ、また新たな彼女の人生が始まりました。実家でしばしあの頃のようにたらたら生活を楽しんだ後、娘達は倉敷にいる弟一家の新居を訪ね、最後に彼女が10年暮らした神戸で懐かしの友人達に再会!・・・久しぶりで一杯母国語を堪能した娘Mは夫と共に母国でのバカンスを駆け抜けて帰って行きました。

娘夫婦にお付き合いの時間を過ごした後は猛然と仕事に向かいます。あ~ぁ、何だかお疲れで休憩!とばかりにまた二人で日南詣で・・・行ったばかりなのに。この頃あの友人H氏も同じく友人のY氏と四国へ二人旅…案の定相当ハードだったらしい。笑えるねぇ…彼奴ら互いに私へちくりの電話を寄越したっけ!愛しき奴らです。おっとごめんね・・・画家のY氏の事忘れてた!「Mちゃんに会いたいから絶対連絡して…ね」彼、そう言ってたんだよな。娘夫婦が家を出る前夜、Y氏から掛かってきた彼の電話に「ごめん・・・忘れてた!」だから彼は電話で娘とちょっと喋っただけ「…いいよ」ちょっぴり拗ねてたなぁ彼。

こうしてまた日常が戻ってきました。あれから仕事を順調にこなし…人生の晩年になった今でもこうして良き友人達との交流が変わらない。夫は来年から後期高齢者らしいけれど「だから?」です。私達元気です!「お楽しみはこれから・・・」誰かのフレーズがまだ耳の底を流れます。青春を謳歌していたあの頃の仲間達がもう幕切れ間近というのに、皆それぞれ人生人紆余曲折あってもあの若い日のまま真っすぐでまだ意気盛・・・そんな良い奴らと人生の時間を紡いできたんだなぁとしみじみ思います。私達人生の成功者かも!

 

 

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