9月に入っても酷暑は続き、あれからがんがん仕事して･･･いよいよの福井の展示会です。4年前、北の方に憧れて初めて訪れた町・武生･･･コロナの隔たりがこの街を遠ざけていました。懐かしい神戸まで飛んで、後ろ髪引かれながら大阪で乗り換え、右手に琵琶湖沿いを列車で上がって降り立つ駅は先の大戦の戦火を免れた北の町･･･。大きな蔵が点在し、今はがらんとシャッター街と化した目抜き通りの店構えもガラスの入った板戸･･･金字で屋号が描かれてあります。昔、幼い目に焼き付いていた町並みです。

いそいそと南の海辺から北へ向かって初秋の街を訪れたつもりが、まさかの強烈な晩夏！武生にはたった10日余りの滞在でしたが、ホテルは駅のすぐ隣･･･ならばここからギャラリーまでを町歩きで早朝散歩替わりとしよう！と、20分の距離を展示会中は駅前ホテルからギャラリーまでぷらぷら1時間掛けて町歩き。日本の暮らしってこうだったなぁ･･･漆喰や板張り壁に瓦屋根の古い家並みや細い曲がり路地のある風景、川底には水藻が揺れて緩やかな疎水･･･ここは目まぐるしく加速するデジタル社会の中で作られた観光の町ではなく、今なお深い眠りに落ちたまま･･･かつての日本の暮らし、その佇まいの美しさを再認識です。

展示会終わりに来て･･･中秋の名月から日は途端に釣瓶落とし、瞬く間に群青の空に染まって掛かる月･･･ここ武生の町は驚くほど一斉に虫の音に包まれます。あぁ、4年前もこの町は虫の音の町だった。

会期中、カウンターに陣取って展示会に来て下さった方々とお茶を飲みながらいろんな話をしました。ここで訪れた人の心に波打つ幾つかの切なさに出合いました。そんな憂いがこの街の何処かで静かに息づいているのです。帰り着いた今、出合った方々の想いが胸に染みています。 私にはそんな“切なさ”が何処かそこはかとない哀しみ色の薄いベールのような“美”と思えるのです。70を超してもう迷いも憂いもない緩やかな大地に辿り着いた今、私に”切なさ“など縁遠く今は心地よい風に吹かれているのですが･･･多分、無い物ねだりなのでしょう、陽を浴びた苔が朝露の湿りで蘇るように、そんな“切なさの拾い食い” を武生で堪能して帰路につきました。

帰り着けばまた猛然と仕事･･･。お直しやオーダーに明け暮れ、夫が10日余り独り留守番だったことを私は忘れていました。彼自身、もうすぐ地元で始まる展示会でナーバスにもなっていたのでしょう。ひょんな事から久しぶりの大喧嘩！もう忘れるほど遠い昔の昔の互いの恋で発火です。それぞれ色褪せた箱に入れたまま燻っていた想い･･･は小さなズレがいろんな感情を呼び起こし、あの日若い日のように二人大喧嘩しました。わっと吐き出せばあの若い日の切なさが蘇って「もはや何が起きても･･･」と胡座かいて居直ってた私の底で何かが震えました。私は俗に言うならば愛情乞食･･･甲冑に身を固め剣を振り回しながら、その挑むためのエネルギーが請う”愛”なのです。敵？の愛なくして戦えません！相手を罵倒しながら愛を求めるという･･･正しく矛盾の極地です。向こうも傲慢なくせに人間が甘いから最初の大恫喝の割には腰砕け！結局向こうも寂しかったんだ！私達二人･･･甘ちゃんなんだなぁ、翌日二人とろりんと仲直りして･･･70過ぎて何の戦いだったんだろう？

夫は今日、早朝のバスで福岡へ。夫の60年来の友人の呼びかけあり！まだ仕事が残っていた私は一抜けで結局男三人(今でも血気盛んなでこぼこ男三人に私が無理矢理参入で4人がワンチー‼）美術館を巡って今夜は博多の町で一泊･･･今頃私の悪口などで酒盛り！賑やかなことだろう。

私達夫婦は仕事場も一緒･･･同じアトリエで音楽聴きながら手を動かします。私が話せばキャンバスの向こうから彼も想いを語ります。どちらかが出たり入ったり、たまにどちらかが独り留守番することがあってもこんなふうに夜も独りなんてめったになかったぁ。そんな次第で今宵は私独り！確かにそうなるとこの大きな家はやけにがらんと静まりかえって･･･心許なさが忍び寄っています。私が福井で仕事とはいえ、今回も夫は家で一人っきりで留守番･･･こんな独り”待つ”日を十日以上も過ごしてきたわけだ！少し夫のすねて絡んだ気分･･･察します。

独りって音がないんだなぁ･･･

何時かはどちらかが独りに･･･ってこの年代になれば頭で認識はしています。でも実感なんて分からなかったけれど、こんな音のない日々が続くんだ。友人も仕事もあるけれど･･･私のエネルギー補給･･･思い出の貯蔵庫に頭を突っ込んで愛の残り香で空腹を満たすのだろうか？誰しも人は晩年、こういう想いを噛みしめながら人生を全うして行くんだなぁ。

仕事を終え、夜のとばりが降りれば二人手を繋ぎながらビールを飲む幸せ！･･･今更ながら痛感します。